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筋骨格系

遺伝性の病気・・股関節形成不全[筋骨格系]

大型犬の遺伝的に起こる主な病気の一つとして「股関節形成不全症」があります。 股関節形成不全症のワンちゃんは後ろ足の歩き方や座り方に異常がでてきます。また、関節が正常に入っていないため股関節炎を起こすこともあります。

★股関節形成不全ってどんな病気?★

遺伝的に股関節の凹みが浅い骨格のワンちゃんに発症しますが、ほとんどが大型犬の急激な骨の成長に筋肉の成長が追いつかなくなることで起こります。骨と筋肉の成長にアンバランスが生じると股関節は不安定になり、大腿骨の先端である骨頭が股関節の凹みにしっかりはまらなくなるため、股関節は常に亜脱臼の状態になってしまいます。

そのため、股関節形成不全症のワンちゃんは後ろ足の歩き方や座り方に異常がでてきます。また、関節が正常に入っていないため股関節炎を起こすこともあり、その場合は痛みがあるのでワンちゃんは歩くことを嫌がります。小型犬においてもこの病気自体はありますが、日常生活の範囲内ではほとんど支障がないので、あまり問題視されていません。

★どんな子に多いの?★

遺伝性の病気のため、股関節形成不全と診断された両親から生まれてくる子犬たちの約80〜90%はこの病気の可能性があるといわれています。

また、股関節形成不全ではない両親から生まれた子犬たちでも25%がこの病気を持って生まれます。それは両親の親たちが股関節形成不全を持っている場合です。いわゆる大型犬で親はもちろん先代からの遺伝を受け継いだワンちゃんはこの病気になる確率が非常に高いのです。

また、この病気の発生や症状の悪化は、運動のさせ方や生活環境の影響も大きく関わっています。特に太りすぎのワンちゃんには要注意です。発育期の子犬の場合、一日も早い成長を願う親心が災いしてつい栄養価の高い食事をたくさん与えてしまいがちです。

さらにその期待に応えるかのように大型犬の子犬たちは与えられたものを見事にたいらげてくれます。その肥えすぎた体重は骨格形成が完全にできていない股関節に大きな負担となり、形成不全を起こりやすくしてしまうのです。

★いつ頃に起こる病気?★

股関節形成不全症のほとんどは、大型犬の骨格が形成され終わる2歳頃までに症状として現れますが、成犬になってはじめて症状を示す場合もあります。発症が最も多い時期は生後6〜8ヶ月くらいの頃で、早ければ生後3ヶ月くらいから股関節の異常が目立ってくることもあります。

しかしワンちゃんによっては、重度な場合でも一歳を過ぎると痛みが自然になくなりその後ほとんど症状が出ない時期がくることもあるため、飼い主さんは治ったと思い込み激しい運動をさせることで症状が悪化することがあります。

なお、成犬になってから症状が出た場合では、後肢の筋肉が萎縮し、すぐに座ったり歩行が困難になったりすることがあります。

★こんな症状があったらこの病気を疑ってみよう★
横すわりをする
正常な座り方をすると股関節に負担がかかってくるため横すわりをしたり、あぐらをかくようなしまりのない座り方をします。

腰を振って歩く
股関節が正常に形成されていないため歩き方が異常となり、腰を左右に振って歩きます。これは股関節形成不全症の特徴的な症状で『モンローウォーク』と呼ばれます。

ウサギ跳びをする
股関節の負担を少なくするために両後肢を一緒に動かして走ります。

立ち上がるのに時間がかかる
立ち上がる際は常に後ろ足に負担がかかるため、正常より多少時間がかかってしまいます。

歩く時に頭が下がっている
前肢で体重を支えることで、後肢での歩く負担を少しでも少なくしようとしている証拠です。

高いところに登るのをためらう
股関節形成不全症のワンちゃんは、ジャンプなど後ろ足を使う時に股関節に痛みを伴うことがあるため、その行動をためらう場合があります。

★股関節形成不全症と診断できる検査方法は?★
歩き方の検査や麻酔をかけておこなう身体検査がありますが、この病気を確定診断するには主にX線検査を行うことが一般的です。

すでに一歳以下の時期に症状がある場合はその時点でのX線撮影により診断することができますが、子犬の頃あまり症状が現れずはっきり診断できなかった場合でも、股関節の形成が完全に形成される2歳頃までにはX線検査によりおおよそ診断することができます。

★治療法は症状によって異なります★

症状を起こしているワンちゃんの年齢、関節のゆるみや進行の程度によって治療方法を決定します。主な治療法は薬で痛みを抑えたり外科手術を実施することですが、特に手術は成功すれば痛みをはじめとしたこの病気の症状をほとんど取り除くことができ、ワンちゃんの生活の質の改善に大いに役立ちます。

《軽症の場合》
関節の炎症が治まるまで消炎鎮痛剤の内服をし、運動制限をおこないます。また、成長期のワンちゃんに対しては急激な体重の増加や栄養過多を防止するために食事制限を行います。食事の量を通常の70〜80%にすることによって、その後良好に生活を送れる可能性は70%以上という報告もあります。

《重度の場合もしくは長期にわたって症状がある場合》
食生活の改善や内服薬などで病気の進行を抑えられない場合は外科手術が必要となりますが、ワンちゃんの年齢や病気の状態によって方法が異なってきます。

大腿骨頭切除術
股関節を形成する大腿骨の先(骨頭)を切断して取り除いてしまう方法です。骨が自然治癒していく形で繊維性の丈夫な結合組織による偽関節を作るため、「偽関節形成術」とも言われています。手術の中でもっとも簡便な方法ですが、関節の運動範囲は制限され筋肉量は回復しないため、体重20キロ以上のワンちゃんでの結果はあまり思わしくありません。

骨盤3点骨切り術
生後5ヶ月〜1年くらいの子犬の場合は骨盤を形成する「腸骨」「恥骨」「坐骨」をそれぞれ切断し、股関節の凹みの角度を変えて大腿骨頭が脱臼しにくいように整形する方法です。片側の手術を行ったあと4〜6週間後にもう片方の手術をおこないます。

股関節全置換術
障害のある股関節を人工関節に置き換える方法で、重度の股関節形成不全症、変性性関節炎、骨頭切除術では対応できない症状などに対しておこないます。骨盤部の凹みに樹脂製のカップをつけ、大腿骨の先を切断して代わりにステンレス製の人工骨頭を埋め込む大きな手術です。股関節形成不全のワンちゃんの治療法として非常に優れており最も有効な方法ですが、人工関節の値段は非常に高くこの手術に対して経験豊富な獣医師がまだ少ないため、一般化するのには時間がかかるのが現実です。

★どんなことに気をつければいいの?★

《子犬期の食事制限》
もし、股関節形成不全の素因を持っている場合でも、食事制限を生後2ヶ月頃より開始し、通常与える栄養量より少なめの70〜80%の成長段階に合わせた良質なフードだけで発育させることで、発症は減少されると言われています。

なお、骨の病気だからと言ってカルシウムを与えすぎると、それは逆に体にとって有害になります。子犬用のフードには十分なカルシウムが含まれているためカルシウム不足になることはありません。栄養のバランスが整ったドックフードだけで育てることが一番の理想です。

《体重制限》
股関節形成不全症のワンちゃんのケアで重要なものの一つが、肥満にさせないことです。肥満にさせると股関節に負担がかかり症状が悪化してしまうため、体重のコントロールが非常に大切になります。

《運動制限》
また、子犬期の運動管理も大切になります。運動は痛みが出るようなら多すぎますが、筋肉の適度な発達も不可欠なので、無理のない範囲で散歩や運動を行いましょう。

《交配をさせない》
大型犬の遺伝病といわれている股関節形成不全症は、繁殖の問題が病気を広める主要因となっています。そのため、この病気にかかっているワンちゃんはもちろん、その子自身が発病していなくても親や兄弟にこの病気の子がいる場合は交配をさせないようにし、飼い主さんのワンちゃんだけでなく生まれてくる子犬たちのことも考えましょう。

《子犬選びは慎重に》
予防の基本はまず第一に病気の遺伝的素因を持たない子をいかに選び、育てるかが重要視されます。生後5〜8ヶ月の急激な成長期に筋肉の発達と骨の成長のバランスがとれていて股関節の形態が正常であればこの病気が発症する可能性はほとんどありません。

《なにより痛みを抑えてあげましょう》
たとえ股関節形成不全症であっても、ワンちゃんがほとんど痛みを感じず日常生活にそれほど障害がないのなら、手術を考える必要もあまりありません。問題はワンちゃんの感じる「痛み」をいかに減らすか、です。傷んだ関節を修復するサプリメントを飲ませたり、それでも痛みがある場合は消炎鎮痛剤を一緒に飲ませたりして、痛みを抑えてあげることが最も大切だといえるでしょう。

最近ではワンちゃんにおいても「クオリティー・オブ・ライフ」という言葉が使われ始め、人間同様“生活の質”を高めることが考えられるようになってきました。
そして実際にワンちゃんの痛みを抑え、穏やかに過ごせる時間を少しでも多くすることが生活の質を高めることにつながっていくのです。
ワンちゃんの年齢や病気の状態に応じてどのような治療法が最も適切なのか、ワンちゃんのクオリティー・オブ・ライフを高めるには何をしてあげられるのか、その子にとって一番ふさわしいと思う方法を選んであげましょう。

キーワード

犬 イヌ 股関節形成不全 股関節